流れ船
ながりぶに (または)ながりぶーにー
nagari buni または nagaribuunii
語句・ながりぶに旧暦三月三日に行われた神事のひとつ。三月遊びとも言う。いまでは座間味島にだけ残っている。【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)にはこの「三月遊び」を「年中行事の名。三月遊びの意。旧暦3月3日、平民の娘たちが鼓を打ち、歌を歌って興ずること。上代の歌垣に似ている。那覇では、娘たちが遊山船(nagaribuunii)を仕立てて、船の中で鼓を打ち、歌を歌って遊び暮らす風があり、その時、村と村が対抗して、歌で喧嘩する場面も見られた。」ところで、「旧暦の三月三日」といえば沖縄では「浜下り」(はまうり)といい、アカマター伝説とともに、女性が浜に下りて身を清めるという風習がある。この「流れ船」の「三月遊び」が残っている座間味島では午前中に墓参りをし、午後は浜下りをして、夕方から海上パレードをするとのことらしい。
CD「失われた海への挽歌 」より 唄三線;嘉手苅林昌
一、泊高橋に(ヨ サーサー)銀ジーファー落とぅち(ヨー ユイヤサーサー ハラユイサーユイ)
とぅまいたかはしに(よーさーさー) なんじゃじーふぁー'うとぅち(よーゆいやさーさーはらゆいさーゆい)
tumaitakahasi ni (yoo saa saa)naNja jiihwaa 'utuchi(yoo yuiya saa saa hara yuisaayui)
〔囃子、繰り返し以下省略〕
◯泊高橋に銀かんざし(を)落として
語句・なんじゃ銀・じーふぁーかんざし 「身分により金(くがに)銀(なんじゃ)真鍮(ちじゃく)などの区別があった。」【琉球語辞典(半田一郎)】。・うとぅち 落として。<うとぅしゅん、うとぅすん。落とす。
二、いちが夜ぬ明きてぃ とぅめてぃさすら
いちがゆーぬあきてぃ とぅめーてぃさすら
'ichi ga yuu nu 'akiti tumeeti sasura
◯いつ夜が明けて探して(かんざしを)差すのやら
語句・いちが いつ。「が」は「疑わしさを表す文に用いて、文の疑わしい部分に付く」【沖辞】。・とぅめーてぃ 探して。<とぅめーゆん、とぅめーいん。拾う。探し求める。
三、落とちゃしや銀 とめたしやうらに
うとぅちゃしやーなんじゃ とぅめーたしや うらに
'utuchashi ya naNja tumeetashiya urani
◯落としたのは銀 見つけたものは居ないか
語句・し「(接尾)(・・する、・・した、・・な)の、もの、こと。活用する語の『短縮形』(apocopated form)に付き、その語に名詞のような働きを与える」【沖辞】。・うらに おるまい。居るまい。「ある」「居る」という意味の「うん」の否定形「uraN」に「i」が付いた疑問形。
四 志慶真乙樽ぬ みじーふぁあらに
しきまうとぅだるぬ みじーふぁあらに
shikima 'utudaru nu mijiihwa 'arani
◯志慶真乙樽の御かんざしではないか?
語句・しきまうとぅだる古琉球と呼ばれた13世紀の三山時代、北山をおさめた城が今帰仁にあり、そこに側室として迎えられた村の美女が志慶真乙樽。
五、遊びぶしゃあてぃん まどぅにあしばりら
あしぶしゃやあてぃん まどぅにあしばりら
'ashibusha ya 'atiN madu ni 'ashibarira
◯遊びたいと思っても普段からは遊ばれまい
語句・まどぅ 「平素。平生。不断。ふつうの時」【沖辞】。他には「あき間。すき間。」「すいている時間。仕事のあいま。」「人の見ないすき」が【沖辞】にはある。・あしばりら 直訳すると「遊べるか」だが、「いや、遊べない」と反語的な意味がある。
六、今日や名に立ちゅる 三月ぬ三日
きゆやなーにたちゅる さんぐゎちぬみっちゃ
kiyu ya naa ni tachuru sangwachi nu miccha
◯今日は有名な三月の三日
語句・なーになちゅる 有名な。
七、かりゆしぬ船に かりゆしわぬしてぃ
かりゆしぬふにに かりゆしわぬしてぃ
kariyushi nu huni ni kariyushi wa nushiti
◯めでたい船にめでたいことを乗せて
語句・かりゆし 「めでたいこと。縁起のよいこと。」【沖辞】
八、旅ぬ行き戻い 糸ぬ上から
たびぬいちむどぅい いとぅぬうぃいから
tabi nu 'ichi mudui 'itu nu 'wii kara
◯旅の行き戻りは絹糸のように穏やかな海上を走るようだ
語句・いとぅ 「絹」【沖辞】「いーちゅ」とも言う。
九、御祝え事続く 御世の嬉しさや
うゆうぇぐとぅちじく みゆぬうりしさや
'uyuwee gutu chijiku miyu nu 'urishisa ya
◯おめでたい事が続く この世の嬉しさに
十、夜の明けて太陽ぬ 上がるまでぃん
ゆーぬあきてぃてぃーだぬあがるまでぃん
yuu nu 'akiti tiida nu 'agarumadiN
◯夜が明けて太陽が上がるまでも
十一、夜の明けて太陽や 上がらわんゆたさ
ゆーぬあきてぃ てぃーだや あがらわんゆたさ
yuu nu 'akiti tiida ya 'agarawaN yutasa
◯夜が明けて太陽は上がってもいいさ
語句・ゆたさ いいことだ!<ゆたさん。ゆたしゃん。良い。宜しい。形容詞の「さ」で終わる形は「感嘆」の意味を持つ。たとえば「あぬ むいぬ たかさ」(あの山の高いことよ!)。
十二、今日や名に立ちゅる 三月ぬ遊び
kiyu ya naa ni tachuru sangwachi nu 'ashibi
きゆやなーにたちゅる さんぐゎちぬあしび
◯今日は有名な三月の遊び
十三、夜の明けて太陽ぬあがらわんゆたさ
ゆーぬあきてぃてぃーだぬ あがらわんゆたさ
yuu nu 'akiti tiida nu 'agarawaN yutasa
◯夜が明けて太陽が上がってもいいさ
2006年に取り上げた「流れ船」、今回は嘉手苅林昌さんの唄三線。
CD「失われた海への挽歌」に収録されている。
林昌先生らしく、カチャーシーの歌詞を織り込んで「流れ船」の現場にいるかのような錯覚に陥る。
さて、私は「流れ船」(ナガリブーニー)という神事を見たことはない。
一番最初に書いたが辞書によると今では座間味島だけに残っている神事とある。
確かに座間味島の観光協会に問い合わせると旧暦の三月三日に行われるのだという。
座間味島に詳しい知り合いや観光協会の方からのお話をまとめると三つの行事が旧暦の三月三日に行われるようだ。
①ウシーミー(清明祭)。午前中は先祖供養のためにご馳走を作ってお墓まいりをする。
②ハマウリ(浜下り)。午後は潮干狩りもしつつ、伝統的な女性の健康祈願のための浜下り。拝所(ウガンジュ)を回り、その後の「流れ船」に向けて準備する。
③16時〜大漁旗を掲げた船が島中から座間味港に集結。航海安全と大漁を祈願しパレードをする。そのあと船を数隻ずつ連結して島の間を回りつつ港に向かう。
船上では歌三線が奏でられ女性たちがカチャーシーを踊る、という。
この民謡「流れ船」がそこで歌われるものなのかはわからない。
が、この座間味島に残っている「流れ船」の神事に関係するということは確かだろう。
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