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Channel: たるーの島唄まじめな研究
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谷茶前 3

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谷茶前(明治初期) たんちゃめー taNcha mee ※歌詞は「琉球列島 島うた紀行 第1集」(仲宗根幸市編著)の「谷茶前」より。 一、谷茶前の浜にスルル小が寄たぅたん なんちゃましまし たんちゃめーぬはまに するるぐゎーが ゆとーたん なんちゃましまし taNchamee nu hama ni sururu gwaa ga yutootaN naNcha mashimashi ◯谷茶(の)前の浜に きびなごが寄っていた なるほど 良い良い 語句・ゆとーたん 寄っていた。ゆゆん。寄る。→ゆとーん。寄っている。→ゆとーたん。寄っていた。語句・なんちゃ なるほど。<んちゃ。「なるほど。全く。ほんとに。はたして。予想にたがわず」【沖縄語辞典(国立国語研究所編)】(以下【沖辞】と略す)。・まし 「まし。一方よりまさること。一方より良いこと」【沖辞】。比較した結果の「まし」ではなく直に「良い。好き」という使い方もあるようだ。この歌詞でも何かと比較するものはない。だから「良い」とする。 二、スルル小やあらん まじく小どやんてんどぅ よくもましまし するるぐゎーやあらん まじくぐゎーどぅ やんてぃんどー ゆくんましまし sururugwaa ya 'araN majiku gwaa du yaNtiN doo yukuN mashimashi ◯キビナゴではない マジク(タイワンダイ、ヨナバルマジク。鯛の一種)だぞ もっと良い良い 語句・まじく タイワンダイ、ヨナバルマジク。鯛の一種。しかし「琉球列島 島うた紀行 第1集」(仲宗根幸市編著)の中で「あれはキビナゴでなくまじく(シク=アイゴの稚魚)だよ」と訳されている。これについては後述する。・ゆくん 「さらに。なお。もっと。一層」【沖辞】。 三、谷茶前の浜やスルル小も寄よい まじく小も寄よい でかよいかいか たんちゃめーぬはまや するるぐゎーん ゆよーい まじくぐゎーんゆよーい でぃかよー いかいか taNchamee nu hama ya sururu gwaaN yuyooi majikugwaaN yuyooi dikayoo ‘ika ‘ika ◯谷茶(の)前の浜に きびなごが寄ってきていて マジクも寄って来ていて さあ!行こう行こう 語句・ゆよーい寄ってきていて。<ゆゆん。寄る。・でぃかよー 「いざ。さあ。」【沖辞】。・いか 行こう。<いちゅん。行く。→いか。希望。呼びかけ。 四、でかよ押しつれて獲やい 遊ばすくて遊ば すくてとらとら でぃかよーうしちりてぃ とぅやいあしば すくてぃあしば すくてぃとぅらとぅら dika yoo ‘ushichiriti tuyai ‘ashiba sukuthi ‘ashiba sukuti tura tura ◯さあ、一緒に連れだって獲ったりして遊ぼう!すくって遊ぼう すくって獲ろう獲ろう! 語句・うしちりてぃ 一緒に連れ立って。・とぅやい獲ったり。<とぅゆん。獲る。・あしば 遊ぼう。希望。呼びかけ。・とぅら獲ろう。希望。呼びかけ。 五、月も照り清らさできゃよう押し列れて でかよでかでか ちちんてぃりぢゅらさ でぃきゃよーうしちりてぃ でぃかよーでぃかでぃか ◯月も照って美しいことよ!さあ一緒に連れてさあ、さあさあ! 語句・ちちんてぃりぢゅらさ 月も照って美しいことよ!。「でかよ押しつれて」と共に琉歌にはよく使われる句である。・でぃかでぃか 「さあさあ。いざいざ。」【沖辞】。 谷茶前の原型を求めて 「谷茶前」には舞踊などで使われる歌詞以外にもいろいろな歌詞が存在していることは周知の通りである。 本ブログで取り上げた「琉球列島 島うた紀行 第1集」(仲宗根幸市編著)【以下「島うた紀行」と略す】には二つの「谷茶前」が紹介してあり、どちらも現在のものとは異なる点があるのだが、特に今回の「明治期の谷茶前」の歌詞は異なる点が多いだけでなく実に興味深いものがある。 「明治期の谷茶前」の特徴と気づき ①「島うた紀行」では二番が上掲の歌詞の三番となっている。上掲の二番の歌詞は一番の後に続いている。これが単なる誤植なのかどうかは不明だが、ここでは二番に「スルル小やあらん。。。」の歌詞を当てることにする。当時どのように歌われていたのか不明なので、歌詞の長さから判断した。 ②「まじく小」を「スク」(アイゴ=エー小:エーグヮーの稚魚。刺身やスクガラスにする。)を意味する、と書かれている。これによって「島うた紀行」での谷茶前の解説では『明治初期の「谷茶前」は歌詞からして「シク」(スク)の歌であったことがわかる。原歌では「真じく小」であったが、「大和ミジュン」に改作されていく」(「島うた紀行」p145)とまで言いきられている。果たして「まじく小」は「スク」なのか。 現在ウチナーグチで「マジク」といえば「タイワンダイ」または「ヨナバルマジク」のことを意味する。つまり「鯛の一種」である。しかし「谷茶前で出てくる魚は群れる魚だ。鯛だとおかしい」という意見もあるだろう。確かにスクは群れる魚ではあっても、「谷茶前」は群れる魚の漁を歌ったものとは限らない。 「島うた紀行」でいわれるように「マジク」は「マ・シク」であり、地元では「スク」の呼び名であるという事なら話は別である。それについてはもう少し調べてみる必要はあるだろう。 ③現在の舞踊曲としての谷茶前も明治初期のものも琉歌形式(8886文字の定型句)ではないところから、元歌は古い可能性がある。 ④囃し言葉は、現在のもの(「ナンチャマシマシ ディーアングヮーソイソイ」または「タンチャマシマシ」や「ディアングヮーヤクスク」など)は歌詞の内容とは関係なく、後からつけられた(変えた)感があるが、明治期の囃子は歌詞に対応して意味がはっきり理解できる。 《囃子》 《意味》 「ナンチャ マシマシ」 (なるほど良い良い) 「ユクン マシマシ」 (もっと良い良い) 「ディカヨー イカイカ」 (さあ行こう行こう) 「スクティ トゥラトゥラ」 (すくって獲ろう 獲ろう) 「ディカヨーディカディカ」(さあ さあさあ) 「マシマシ」「イカイカ」「トゥラトゥラ」「ディカディカ」。いずれも二音節の畳語表現で素朴で率直だが、生き生きとした情景を囃子にしている。 一方これら明治期の囃子とは異なる現在の囃子も検討してみよう。 《囃子》 《意味》 「ナンチャン ムサムサ」 (なるほど 騒がしい?) 「ディーアングヮー」 (さあ、姉さん) 「タンチャマシマシ」 (谷茶騒がしい?) 「ディーアングヮーヤクシク」 (さあ姉さん 約束) 「ムサムサ」は「ムサゲーユン」(「賑やかに騒ぐ、ざわめく」【琉辞】)からきていると想像できる。明治期の囃子とは変わって付け加えらたり、長く変化させたり、リズムをより複雑にして面白く発展させたいるように見える。 「島うた紀行」に掲載された明治期の「谷茶前」の歌詞がどこからの出典なのかはわからないが、前回、前々回と本ブログで取り上げた歌詞などと比べても囃子は素朴で率直な点が特徴といえよう。それに対してよりリズム感をあげ面白く発展しているのが現在の「谷茶前」の囃子だと言える。

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