桑ムイ節
くゎーむいぶし
kwaa mui bushi
〇桑(の葉)採りの唄
語句・くゎー 桑。ここで収穫するものは桑の葉。絣の素材である絹糸をとるための蚕の餌。・むい 採る。もぐ。<むゆん 「(果実を)もぐ」【沖縄語辞典】とあるように、「もぐ」は葉などより果実を採る意味に近い。
一、(女)桑ムイになじき 山登てぃ居らば 里や草刈になじき 忍でぃいもり チョンチョン ヤーチョンチョン 山んじ里前に真心語らば 骨なてぃくちなてぃ如何ならわんまま
くゎーむいになじき やまぬぶてぃうらば さとぅやくさかいになじき しぬでぃいもり(チョンチョン ヤーチョンチョン)やまんじさとぅめにまぐくるかたらばふになてぃくちなてぃ いちゃらわんまま
kwaa mui ni najiki yama nubuti uraba satu ya kusakai ni najiki shinudi 'imoori (chooN chooN yaa chooN)yama 'Nji satumee ni magukuru kataraba huni nati kuchi nati 'icharawaN mama
〇私は桑の葉採りのふりをして山に登っているから 愛しい貴方は草刈りのふりをして忍んで来てください (囃子言葉以下省略)山で彼氏に真心を伝えれば骨になり遺骨になっても(死んでも)どうなっても一緒よ
語句 ・なじき 「ふり、そぶり〔表向きよそおうこと〕、口実」【琉球語辞典】。・んじ で。場所を表す。・くち 遺骨。 「ふに」は「ほね」から、「くち」は「こつ」からの変化(三母音化)したもの。・いちゃらわん どうなっても。<いちゃら<いちゃる いかなる。 +や は。融合したもの。 + わん<ば+も。 ・まま 「一緒」【琉辞】。
二、(男)草刈になじき 無蔵とぅ恋ぬ奥山に思い語ら (囃子 省略) 山居てぃ染みなち 比翼ぬ鳥なてぃ紺地ぬ色なさ
くさかいになじき んぞとぅくいぬうくやまに うむいかたら やまうてぃすみなち ひゆくぬとぅいなてぃ くんじぬいるなさ
kusakai ni najiki Nzo tu kui nu 'ukuyama ni 'umui katara yama uti suminachi hiyuku nu tui nati kuNji nu 'iru nasa
〇草刈りのふりして お前と恋の奥山で恋を語ろう 山で心染めあい比翼のオシドリのように仲良く 紺地の色のように濃く染めあおう
語句・ひゆくぬとぅい 中国の伝説上の鳥で 「雌雄それぞれの目と翼が一つずつで 常に雌雄一体で飛ぶという中国の伝説上の鳥」【琉辞】。
三、(女)蚕ぬ糸ひかち 七読にかきてぃ イヤヨ里があけじ羽ぬ御衣にさびら (囃子 省略)深山に隠りてぃ 忍ぶる恋路ぬ他所目に知りらば闇路ぬ恋舟 うち乗てぃ行ぢゃい 後生ぬ港に 如何ならわんまま思切り第一
かいぐぬいとぅひかち ななゆみにかきてぃ いやよ あけずばぬんしゅにさびら みやまにかくりてぃ しぬぶくいじぬ ゆすみにしりらば やみじぬくいぶに うちぬりてぃいちゃい ぐしょーぬんなとぅに いちゃならわんまま うみちりでーいち
kaigu nu 'itu hikachi nanayumi ni kakiti 'iyayo 'akezuba nu Nshu ni sabira miyama ni kakuriti shinubu kuiji nu yusumi ni shiriraba yamiji nu kuibuni 'uchi nuriti 'ijai gushoo nu Nnatu ni 'ichanara waN mama 'umichiri deeichi
〇蚕が絹糸を引いて七読みほどの細かい目の上等の織物を織って(イヤヨ 囃子言葉)トンボの羽のように薄くて美しい着物にしましょう 深い山に隠れて忍ぶ恋路を他人に知られたら 闇夜の恋舟に乗って行こう あの世の港に どうなっても一緒だから 死ぬ覚悟です
語句・かいぐ 蚕。「上の山節」では「かいく」と歌われている。【沖縄語辞典】では「蚕」は「かいぐ」。・ななゆみ きめの細かい織り方。 干瀬節を参照。「読」(ゆみ)とは「織り幅に入る縦糸の本数を段階的に表示した(布目の密度の)単位で、一[ひと]ヨミは(計算上)糸80本;目の粗い七[なな]ヨミ〔560本〕から、(上布など)目の細かい廿[はた]ヨミ〔1600本〕まである」(琉) 「読」とは「数え」と同義。 普段着用の七読み、と上布用の二十読→「七読」は付け足しで、ここでは上布を意味するという説もある。(島袋盛敏氏) 琉球語辞典では「(ふだんぎ用に)七読み[ななよみ]や(上布用に)廿読[はたよみ]で、織る糸を」というように両方、あるいはいろいろ用意して、という意味に解釈しているものもある。 ・あけずば とんぼの羽。文語。薄くて美しい御衣の例え。「あけじ」「あーけーず」「あーけーじゅ」とも。・ぐしょー あの世。「上の山節」では「ぐそー」。
四、(男)羽衣や無蔵が 染みあぎてぃからや イヤヨうひん片時ん離りぐりさ (囃子省略)三月遊びや うり着ち遊ぶさ(女)秋なてぃ真中ぬ月見んまたくり (男)夕間暮時分のー 親にん隠りてぃ忍でぃ行ちゅくとぅ山居てぃ待っちょり (女)云ちゃんどーやー変わんなよーやー (男)待ちかんてぃどぅん しみんなようや
はにんすやんぞがすみあぎてぃからや いやよ うひんかたとぅちんはなりぐりしゃ さんぐゎちあしびや うりちちあしぶさ あちなてぃまなかぬちちみんまたくり ゆまんぎじぶのーうやにんかくりてぃ しぬでぃいちゅくとぅ やまうてぃまっちょり いちゃんどーや かわんなよーや まちかんてぃーどぅんしみんなよーや
hani Nsu ya Nzo ga sumiagiti kara ya 'uhwiN katatuchiN hanarigurisa saNgwachi 'ashibi ya uri chichi 'ashibusa 'achi nati manaka nu chichi miN mata kuri yumaNgi jibunoo 'uya niN kakuriti shinudi 'ichu kutu yama uti machoori 'ichaN doo ya kawaNna yoo ya machikaNtiiduN shimiNna yoo ya
〇(男)美しい着物を愛しいお前が染めあげてくれたので すこしも片時も離れずらいよ 三月遊びもそれを着て遊ぶよ 秋になって十五夜の月を見てまた来れば夕暮れ時には親に隠れて忍んで来るから山で待ってくれよ(女)言ったわね それなら心変わりしないでね 待ちかねるなんてさせないでね
語句・うひん <うふぃ 「その大きさ。それだけ」「そんなに大きく(多く)。また、そんなわずか」【沖辞】。+ん 強調。 ここでは「すこしでも」くらい。「上の山節」では「いふぃん」・さんぐゎちあしび 「年中行事に名。三月遊びの意。旧暦三月三日、平民の娘たちが鼓を打ち、歌を歌って興ずること。上代の歌垣に似ている。那覇では、娘たちが遊山船(nagaribuunii)を仕立てて、船の中で鼓を打ち、歌を歌って遊び暮らす風があり、その時村と村とが対抗して、歌で喧嘩する場面も見られた」【沖辞】。
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